ななこのブログ

服を着て映画を見てごはんを食べてときどき旅に出るなどを綴ります

帰ってきたヒトラー(帰ってきてしまった)


映画『帰ってきたヒトラー』予告編

 

帰ってきたヒトラー(原題: Er ist wieder da)2015年・ドイツ映画(日本公開・2016年6月17日)

(TOHOシネマズ上大岡・2D字幕・2016年7月2日鑑賞)

ジョブズの感想を書いてから私生活がばたばたしておりまったく更新できておりませんでした。
それでも映画は見ていましたつまりサボっていました。2016年の上半期も終了したことだし心機一転でまた書こうと思います。
がんばるぞ!
(の第1歩として台湾旅行行ったときのことなどあっぷしてみました)
さて、昨日は話題作を見てきました。邦題のとおり、現代にタイムスリップしてきたアドルフ・ヒトラーの話。


!ネタバレあり!


完全に語彙力が失われている感想なんですが本当にすさまじかったです。
いやぁすごかった…すごい…すごいもんつくるな。すげえなドイツ…と震えたし、エンドタイトル入って1曲目ながれた瞬間に泣いた。恐怖で。
前評判どおりコメディで超笑えるけれど最後は真顔になる映画でした。見てよかった。

 

【「モノマネ芸人なのか本物なのか」よりも】

ストーリーも演出も派手さはなく地味で、わりと淡々と進んでいくなかでたまにドラマが動く感じ。モノマネ芸人だと思われているヒトラーが人気者になったり失脚したりまた返り咲いたりして、多くの市民はそんなヒトラーに笑い、でも中指を立てたり嫌悪感をあらわにしたりする市民ももちろんいる。でも映画見た印象的には圧倒的に前者が多数派と思えました。実際に映画は、ヒトラーが本物だと気づいた唯一の男は精神病棟に入れられて、ヒトラーは超人気者のまま終わる。
しかし正直、このときにヒトラーが本物とみんなに伝わってももはや遅い気がします。そもそもこの物語じたい「モノマネ芸人なのか本物なのか」はどちらかというと物語を展開させるためのテーマのひとつではあり主題ではなく、「ヒトラー(という人物とヒトラーの論)に対してどういう反応を示しどんな選択をしていくのか」が主題で、さらに皮肉なことにその主題は結果的に市民たちが無意識に黙殺している、というのがこの映画。
もちろんヒトラーを本物とするにはあまりにファンタジーすぎるので市民の反応はあたりまえといえばあたりまえなんですが、モノマネ芸人だろうと本物だろうとヒトラーがしゃべっていることに共感を示すのも彼を支援するのも、それは結局「ヒトラーを選択する」結末に至っていることに変わりはないわけなんですね。現代に帰ってきたヒトラーはおそろしいほどに当時と変わっていないのだから。
ただこれを、市民が愚かだとかヒトラーが悪いとかいうふうに一刀両断できないところが、この映画の真髄であり魅力であり、恐ろしいところだと思いました。

 

ヒトラーに惹かれるという恐怖体験】

映画内にあるメッセージや撮影方法のすごさなど語り出すときりがないんですが、この映画に対する感想でいちばんに浮かぶのは、恐怖体験だった、ということ。
私はヒトラーについて0から100まで知っているわけじゃなく、基本的情報(画家を目指していたとか、演説の天才だったとか、ユダヤ迫害とか)を知ってるかなぐらいです。そして本気で誤解されたくないので記載しますが私は決してヒトラーやその思想の支援者ではないです。本当に本当に。
しかし実際に映画で現代のドイツに生きるアドルフ・ヒトラーを見て、彼が魅力的だと感じた自分がものすごく怖かったし、そういう意味でめちゃくちゃなまなましい恐怖体験でした。彼の立ち居振る舞いや話し方・内容、どれもすべてに賛同できなくとも惹かれるところがたしかにある、そのこと自体がこわい。
まさにこの映画でヒトラーが最後に「よいこともあっただろう」と告げましたが、そのことを2時間体感していた私には図星であり、否定したくともできない事実におののく。歴史に残っているヒトラーの所業を考えればたとえよいことがいくらあっても許されないだろうとずっと思っていたし思うのに、現代のドイツの問題と国民に向き合っていく姿を完全に否定できない気がしてくる。
ヒトラーを選択した」という歴史上の事実はドイツ人にとってものすごく重い真実だろうなと思うんですが、この映画ではふたたび「ヒトラーを選択する」可能性の恐怖をまざまざと感じます。歴史を知っている私たちはヒトラーの行いをたしかに間違っているとわかっているはずなのに、なぜ彼を選ぶ可能性をゼロにしきれないのか。答を突き詰めて考えることはまた恐ろしい。知識を得て、問題に向き合い、行動する、それは映画でヒトラーがしていることだけれど、扇動されず私たちが国をよくするためにやらなければならないことである。
人間は歴史から学ぶと信じたいけれど、「国民の総意だった」という言葉の重みにおしつぶされそうだからこそ、おなじあやまちを繰り返してはならないと切実に感じました。この恐怖こそが悲劇の繰り返しをふせいでいくと信じたい。

 

【とにかく一見の価値ぜったいにあり】

もろもろ述べましたがとにかく今こそ見てほしい映画でした。
ドイツでの公開は昨年で日本公開は今年だったわけだけれど、イギリスのEU離脱ニュースもあってものすごくタイムリーな公開となりました。
ドイツ国民はもっともっとリアルに感じるものやいろいろ筆舌に尽くしがたいものがあるのではないだろうかと思います。原作はベストセラーとなったそうだし、私も読んでみたい。

 

 

帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫 ウ 7-1)

帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫 ウ 7-1)