ななこのブログ

服を着て映画を見てごはんを食べてときどき旅に出るなどを綴ります

ブルックリン(私たちは故郷を選択する)

 

ブルックリン(原題:Brooklyn)2015年・ アイルランド・イギリス・カナダ合作映画(日本公開・2016年7月1日)

(TOHOシネマズ川崎・2D字幕・2016年7月16日鑑賞)

 


『ブルックリン』予告


Twitterのふぉろわさんにおすすめされたのをきっかけに見てきました。アカデミー賞見ているときに「何でごくふっつーのラブストー リーぽいのが入ってるんだろ…」と思っていたこの作品ですが、そして確かにラブストーリーでもあったんですが、最初に抱いたそうい う印象とぜんぜんちがった本当にすみませんでした。めっちゃ土下座。
1950年代、アイルランドからアメリカへ移住した女性の物語。アイルランドとアメリカ、ふたつの故郷を持つことになった彼女の選択の 話。
シアーシャ・ローナンといえば私には永遠のトラウマである「つぐない」のイメージがつよすぎて彼女を見るたびに「つぐない」思い出 してしんどくなるということがあるんですが(「つぐない」自体は本当にすばらしい映画)つまりそれほど印象深く良い女優さんなんで すよね。めちゃくちゃ共感させる演技してくる。今回のパフォーマンス特に天才的だった。


!ネタバレあり!


最初20分ぐらいもはや泣きっぱなしだったし、ラスト付近になると嗚咽寸前になるくらい号泣していたので本当に苦しかった…映画見て もぜんぜん泣かなかったのに今年に入ってめちゃくちゃ泣いているから年々涙もろくなるっていうのは本当のことだったんだな。信じて いなかった。真実でした。

パンフのインタビューでもあったけれどトニーとジムはそれぞれの国の良さ、エイリシュがその場所での人生を選択する価値があると思わせるための存在として描かれています。
アイルランドを出たエイリシュはホームシックに落ち込み仕事もままならず、新しい土地になじめず家族からの手紙をずっと握りしめている状態。学校に通い出して良い方向に変化するかも、というところで素晴らしい出会いに恵まれ、彼女のアメリカでの暮らしは好転していく。
その出会いとはトニーとの出会いで、エイリシュの決定的な転機となる。トニーという青年はもう信じられないくらい良い人間。男として、なによりも人間として素敵なひと。エイリシュが彼と出会って見違えるようになったように、トニーも彼女と出会ったことにとてもよろこび心から大切にしている。これはアイルランド人のエイリシュとイタリア人のトニーがおなじアメリカという国で出会い、アメリカ人となる物語でもあるんですね。

そんなふうに勉強も仕事も人間関係もうまくいっているなかで、家族の訃報を知らされます。そこでアイルランドに一度帰ることを決め、この国を出るときにはなかった仕事や素敵な出会いに恵まれることになる。
人生とは本当に皮肉だとまざまざと感じます。姉が亡くなったことにより姉が就いていた仕事を引き継ぎ、そこで評価をされ、アメリカでの生活で見違えるように美しく洗練された女性となった魅力的なエイリシュはジムと惹かれあう。ジムはトニーとはまったくちがう人物だけれどエイリシュと人生を築いていけるひとだと感じさせてくれる。ドーナル・グリーソンは毎回毎回、本当に良い仕事をするね…

アイルランドに帰る前にひっそりと結婚していたこと、アイルランドの閉塞感をまざまざと突きつけられたこと、おおきくはそのふたつにより彼女は最終的にはトニーのもと、つまりブルックリンへ帰ります。このブルックリンに帰るときの船での会話がまた素晴らしい。オープニング見ていれば予想のつく流れといえば流れなんですが、私はもう最後の母親との会話からポスターになっていたラストシーンまで号泣してて息も絶え絶えでした…郷愁を抱いてはいるけれど、最初にアイルランドを出たときに抱いていた郷愁とはまるで中身のちがう複雑な感情があるということを、シアーシャ・ローナンが本当に見事に演じている。1950年代というと通信手段が手紙しかなくて、すぐに帰ることもできない。姉の葬式には結局まにあわなかったわけで、唯一の家族となった母とももう二度と会えないという覚悟を感じます。

これは田舎を出て都会に生きる女性の成功物語でもなく「男を選ぶ」映画でもなく、誰もがいつかは経験する「故郷を選ぶ」映画なんですね。トニーとジムが非常に明快な選択の対象として描かれているんですが、ふたりはそれぞれの国でエイリシュがどう生きていくかの象徴です。アメリカ、ブルックリンでトニーと生きていくのならトニーたちとともに会社をつくり、そこで仕事と家族を築いていくことになる。アイルランドでジムと生きていくのなら老いた母のそばにいながら慣れ親しんだ友人とも過ごせて、さらにジムとはいつか世界を見てまわれるのかもしれないとも感じさせる。
どちらがただしいもまちがっているもないんですが、ブルックリンを選ぶ決断にどうしようもなく納得してしまうし、でもどこかにある自分が生まれ育った故郷を振り返る気持ちも捨てきれない。それはきっと捨てなくていいことで、最後にブルックリンに「帰る」ことで本当の意味でブルックリンがもうひとつの故郷になった。

ポスターのチョイスは本当に素晴らしかったと思います。エンドロールで「BROOKLYN」と出たときになぜだかまた泣けた。これ以上ふさわしいタイトルはない。